「公民権行使の保障」投票や裁判員参加の給料が保障されるわけではない

2009年5月からスタートしている裁判員制度。一般の人が司法に参加するこの制度は、平日に裁判に参加しなければならず、仕事を休む必要があります。社員が裁判員に選ばれ参加した場合、会社は有給扱いにしなければならないのか?
裁判員参加による休みは無給でよい




裁判員や裁判員候補者になって裁判所に出かけると、8,000~10,000円の日当が支払われます。裁判員になり仕事を休んだとしても、会社は有給扱いにする必要は無く、給料をどうするかは、それぞれの会社判断に委ねられています。
「時間」を保障しなければならない
ただし、社員から「裁判員に選ばれたので、来週〇日間休みたい。」と申し出があれば、拒否することはできません。これは労働基準法7条「公民権行使の保障」で規定されており、条文で次のように記されています。
公民権行使の保障
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
労働者が選挙権その他の公民としての権利の行使や、公の職務を執行することを保障するものです。刑事裁判における裁判員の職務や、労働審判制度における労働審判員の職務も「公の職務」として扱われます。
請求日時を変更することはできる
労働者より申し出があった際に、会社がそれを拒否することはできません。ただし、公の職務を妨げない範囲で日時を変更することはできます。冒頭の裁判員制度の参加などは日時変更は難しいですが、下記のような場合は認められています。
飲食店のパートで働く労働者が、忙しい時間帯に選挙に行きたいと必要な時間を請求してきたが、ランチタイムを過ぎてから行ってもらうよう伝えた。近年では期日前投票なども普及しておりますので、特に問題はなさそうです。
公民権は「公民としての権利」「公の職務」の二つ




公民権とは、「公民としての権利」「公の職務」の二つで、具体的には以下です。
- 公民としての権利
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公民とは、参政権(選挙権や被選挙権)がある人のことをいい、その権利とは選挙・国民審査への投票や、立候補できるということを指します。
- 公の職務
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公の職務は、国会議員、地方議会議員、裁判所の証人、裁判員制度の裁判員などです。在職中の公職選挙への立候補そのものについては認められていますが、会社員と議員の兼業はなかなか難しいでしょう。
権利が認められるといっても、会社にとっての労働力が下がることは否めません。通常の会社であれば、社員が応援なども含め選挙活動を行うことを嫌うのは理解できます。
しかしブラック企業では、業務時間・時間外問わず「選挙の自由」を侵害してきます。
ブラック企業の選挙不自由権






全社員に告ぐ!会長が次の選挙に出ることになった。一週間以内に獲得した支援者名簿提出するように!






フムフム、会長には日本を変えるお力があるからな。






名簿集めは業務命令でしょうか?






そんな訳ねーだろっ!察しろ。当然、業務時間外に行うこと!支援者獲得結果を査定に反映する、気合を入れて死ぬ気でやれ!






御意!
この事例は大手飲食チェーンWであった実話です。支援者を多く集めた順に全社員を並べたリストを配布し、ノルマ未達成者にプレッシャーをかけるなどしたとか。
組織内のヒエラルキーを利用し、社員の「選挙の自由」を侵害する行為は、もちろん公職選挙法違反!
こんな違法行為を行うブラック企業は辞める前に、告発を!




「公民権行使の保障」投票や裁判員参加の給料が保障されるわけではない まとめ
- 裁判員制度への参加など公民権行使のための「時間」は保障しなければならないが、有給にする必要はない
- 選挙の投票など公民権行使に拒否はできないが、請求した日時の変更は可能
- 公民権には選挙権などの「公民としての権利」と、裁判員制度の裁判員などの「公の職務」の二つがある
労働基準法7条「公民権行使の保障」社労士試験過去問と解説




条文だけでは、いまいち理解できないことが多いので、社労士試験の過去問で復習しましょう。
※答えは「解答・解説を見る」▼を押して確認してください。
労働基準法7条は、労働者が労働時間中に、裁判員等の公の職務を執行するための必要な時間を請求した場合に、使用者に当該労働時間に対応する賃金支払を保障しつつ、それを承認することを義務づけている。
出典:社労士過去問ランド
使用者が、選挙権の行使を労働時間外に実施すべき旨を就業規則に定めており、これに基づいて、労働者が就業時間中に選挙権の行使を請求することを拒否した場合には、労働基準法第7条違反に当たらない。
出典:社労士過去問ランド
労働者(従業員)が「公職に就任することが会社業務の逐行を著しく阻害する虞れのある場合においても、普通解雇に附するは格別、同条項〔当該会社の就業規則における従業員が会社の承認を得ないで公職に就任したときは懲戒解雇する旨の条項〕を適用して、従業員を懲戒解雇に附することは、許されないものといわなければならない。」とするのが、最高裁判所の判例である。
出典:社労士過去問ランド