【ブラック企業の特徴】短期間で残業代なしの「名ばかり管理職」

ブラック企業では、残業代削減のため「名ばかり管理職」に、短期間で昇進させます。労働基準法41条には、管理監督者に残業代を支払う必要がないと定められていますが、会社の「管理職」といわれる人と、労働基準法での「管理監督者」は、同じではありません。
管理職は「課長以上の役職は管理職」など、会社によってどの従業員を指すのかが異なりますが、管理監督者は労働基準法で明確に定義されています。
管理監督者に認められる労働基準法の特例
労働基準法41条には「管理監督者には残業代を払わなくてもよい」など、二つの特例があります。
- 残業代、休日手当を支払わなくてもよい
- 休憩、休日も本人の裁量でとらせる
この特例を勝手に解釈して、積極的に役職をつけ、残業代の支払いを逃れようとするのがブラック企業です。
ブラック企業あるある「ありえない速さで管理職」






チャッピー、お前もそろそろ一人前だ。明日より「第3営業課・課長」を命ずる!






は、はい…入社半年で課長ですか…。営業課のほとんどの社員が課長ですね…






管理職になれば、月3,000円の役職手当がつく。残業代はつかないから、時間を気にせず働け!






私には荷が重いため、辞退します!
組織変更、昇進スピードが早いのもブラック企業の特徴。昇進、昇格、管理職と、聞こえはいいかもしれないが、出世ではなく会社都合の人件費削減。昇進・昇格したにも関わらず、残業代などを含めた給料が減った場合は、間違いない。
ブラック企業から学ぶ労働基準法




法41条に、労働時間の適用除外の条文が定められていることから、管理監督者など「適用除外」に該当するものを、41条該当者ということもあります。法41条で定める管理監督者の範囲は、思いのほか狭いので、条文を含め解説していきます。
「労働時間と適用除外」法41条の1 条文解説




労働時間の適用除外
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
(条文解説)
次の労働者については、労働基準法の労働時間・休憩・休日の規定が適用除外となります。ただし、適用除外となっても深夜手当については除外されず、2割5分以上の割増賃金が必要です。また有給休暇についても他の労働者同様に取得する権利があります。
- 農業、水産業に従事する者
- 管理監督者
- 監視業務や断続的な業務で、労働基準監督署から許可を受けた者
それぞれ具体的に確認します。
適用除外① 農業、水産業に従事する者
農家、漁師などに就く人ですが、林業は入っていないので注意が必要です。これらの業種は、1日8時間など時間を区切って働くことがなじまないため、適用除外となっています。
適用除外② 管理監督者
管理監督者とは、労働条件の決定、その他労務管理に関し、経営者と一体的な立場にある者を指します。具体的には、人事部長や総務部長、工場長などが該当します。
機密の事務を取り扱う者とは、秘書など、職務が経営者や管理監督者の地位にある者の活動と一体不可分であって、厳格な労働時間管理になじまない者のことです。
適用除外③ 監視業務や断続的な業務で、労働基準監督署から許可を受けた者
- 監視に従事する者とは、警備員や守衛などの仕事で、身体的・精神的緊張が少ないなど一定の要件を満たす必要があります
- 断続的労働に従事する者とは、寮母さん・役員専属運転手など断続的に働くもので、手持ち時間が多い労働者を指します
これらの仕事に就いているだけでは、必要以上に長時間労働になってしまう恐れがあるため、適用除外となるには、所轄労働基準監督署長の許可が必要となります。
管理監督者、適用除外の判断基準
具体的に、管理監督者と認めれるかどうかの判断基準を確認します。
何時から何時まで必ず在社する必要があるというような、本人の裁量の余地が無い場合は、認められません。
肩書をつけただけでは不十分です。実態として、それにふさわしい責任や権限が与えられている必要があります。
基本給や役職手当などで、少なくとも残業代以上の賃金が支給されているかどうか、重要な判断基準です。
管理監督者の認められない場合、残業代の支払いが必要
冒頭での「名ばかり管理職」のように、店長といいながら、店舗を開けている時間はずっと在社する必要があったり、残業代で支給するよりも役職手当の方が少ないケースなどは、管理監督者と認められるのは難しいです。
過去にも裁判で管理監督者であるかどうかが争われた事例は数多くあります。役職の名称に関わらず、その多くは管理監督者と認められずに残業代の支払いを余儀なくされています。
「労働時間と適用除外」法41条の1 まとめ
- 法41条の「管理監督者」に該当する場合、労働基準法の労働時間・休憩・休日の規定が適用除外となる
- 肩書・役職で「管理職」といわれる人と、労働基準法での「管理監督者」は違う
- 管理監督者については、労働時間などは適用されないが、年次有給休暇、深夜労働は適用される






ブラック企業が「名ばかり管理」を増やす理由には、人件費削減の他にも理由があります。権限がほとんどないにも関わらず、役職を与えることで、結果が出ないことを自己責任と押し付け、仕事を辞めにくくなります。「ありえない速さの管理職」注意が必要です。
「労働時間と適用除外」法41条の1 社労士試験過去問の解説
条文の内容を社労士試験過去問で復習します。過去の判例や事例を学ぶことで実務でも役立ちます。
答えは「解答・解説を見る」 ▼を押して確認してください。
H20年出題 管理監督者:要件
労働基準法第41条第2号により、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外されているいわゆる管理監督者については、適用除外の要件として行政官庁の許可を得なければならない。
出典:社労士過去問ランド
H17年出題 管理監督者:深夜業
所定労働時間が始業時刻午前8時、終業時刻午後5時(休憩が12時から午後1時までの1時間)である事業場において、労働基準法第41条第2号の監督又は管理の地位にある者が、所定労働時間を超えて深夜に及ぶ労働に従事した場合、午後10時から午前5時までの時間の労働については、同法第37条の規定に従い、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
H18年出題 管理監督者:年次有給休暇
労働基準法第41条第2号に該当するいわゆる管理監督者については、同法第4章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されず、また、年次有給休暇に関する規定も適用されない。
H27年出題 機密の事務を取り扱う者:定義
労働基準法第41条第2号により、労働時間等に関する規定が適用除外される「機密の事務を取り扱う者」とは、必ずしも秘密書類を取り扱う者を意味するものでなく、秘書その他職務が経営者又は監督若しくは管理の地位にある者の活動と一体不可分であって、厳格な労働時間管理になじまない者をいう。
H25年出題 監視又は断続的労働:許可基準
労働基準法施行規則第23条の規定に基づく断続的な宿直又は日直勤務としての許可は、常態としてほとんど労働する必要のない勤務のみを認めるものであり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って許可することとされている。
H27年出題 監視又は断続的労働:医師等の宿直
医師、看護師の病院での宿直業務は、医療法によって義務づけられるものであるから、労働基準法第41条第3号に定める「監視又は断続的労働に従事する者」として、労働時間等に関する規定の適用はないものとされている。