「フレックスタイム制は残業代出ない」は間違い!導入手順を解説

フレックスタイム制とは、「出勤・退勤時間を社員が自由に決めることができる働き方」です。最近では、ワーク・ライフ・バランスを推進するために導入する企業も増えています。
導入する業種としては、IT・通信・インターネット・マスコミ業界、職種ではエンジニア、プログラマー、デザイナーなど外部の人と接触する機会が少ない特徴があります。
フレックスタイム制であっても、会社が労働時間の管理をしなくてもよいわけではありません。実際の労働時間を把握して、適切な労働時間管理や残業代などの賃⾦清算を⾏う責任があります。
フレックスタイム制の残業代はどうなる?
「フレックスタイム制だから、残業代は出ない」は間違いです。1カ月以内の一定期間、総労働時間の範囲内であれば、1日あたり、何時間働いても残業代は発生しませんが、その期間の法定労働時間を超えて働いた時間は、当然残業代の支払い義務が生じます。
法律を無視するブラック企業にだまされないように、正しい知識を得ましょう。フレックスタイム制での残業代の計算については、こちらの記事を確認してください。










管理人は、ブラック企業歴25年・社労士試験を受けようと思ってのは10年前…。勉強がまったく捗らないときに考えたのが、
「ブラック企業あるあると、法律を関連付けて記憶する!」勉強法です。
日々試行錯誤しながら、学習しております。
フレックスタイム制を導⼊した場合は、時間外労働の取り扱いが通常とは異なります。そのため、1⽇8時間の法定労働時間を超えて働いても、ただちに時間外労働や残業代が発生にはなりません。逆に、8時間に達しない労働時間であっても早退や欠勤となるわけではありません。
導入するには、労使協定で必要な項目を定めなければなりません。法律条文を確認していきます。
労働基準法32条の3の1「フレックスタイム制」条文




1項 フレックスタイム制
(条文前半)
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、
(条文解説・前半)
就業規則に、フレックスタイム制に関する規定を設けて、労働者の過半数代表者と労使協定を締結したときは、
(条文後半)
次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
(条文解説・後半)
労使協定に次の6項目を定めることにより、1カ月を平均して労働時間が週40時間の範囲内であれば、その間に40時間を超える週、8時間を超えて労働させることができます。
フレックスタイム制を採用するには




フレックスタイム制を採用するは、労使協定で以下の項目を定める必要があります。
- フレックスタイム制の対象となる労働者の範囲
- フレックスタイム制の清算期間(対象となる期間、3カ月以内)及びその起算日
- 清算期間中(対象となる期間)の総労働時間
- 標準となる1日の労働時間(有給休暇の目安となる)
- コアタイム
- フレキシブルタイム
清算期間が1カ月を超える場合は、労使協定の有効期間を定め、届け出が必要となります。コアタイム、フレキシブルタイムについては、設ける場合(任意)にのみ、開始・終了の時刻を決めなければなりません。
- 清算期間
-
フレックスタイム制において、労働契約上労働すべき時間を定める期間です。例えば「毎月1日から月末までの1カ月」などと定められています。この清算期間の中で労働時間をカウントします。
以前は清算期間の上限が1カ月でしたが、2018年に「働き方改革関連法」が成立したことにより、2019年4月から上限が3カ月間に延長されました。
※週44時間以内の特例については、1カ月以内 - 清算期間中の総労働時間
-
労働契約上労働者が、清算期間において労働すべき時間として定められている時間をいい、いわゆる所定労働時間を指します。次の条件式を満たす必要があります。
上記の式は、1カ月単位の変形労働時間制で使用するものと同じです。
- 標準となる1日の労働時間
-
年次有給休暇を取得した際に、支払われる賃金の算定基礎となる労働時間です。
- コアタイム
-
コアタイムとは、必ず勤務しなくてはいけない時間帯のことです。ただし、コアタイムは必ず設けなくてはいけないわけではなく、すべての労働時間帯をフレキシブルタイムにしても構いません。
- フレキシブルタイム
-
フレキシブルタイムとは、その時間帯の中であれば、いつでも出社・退社してもよい時間帯のことです。使用者は、各労働者の各日の労働時間を把握しておく必要があります。
2項 フレックスタイム制の清算期間の延長
清算期間が一箇月を超えるものである場合における前項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分中「労働時間を超えない」とあるのは「労働時間を超えず、かつ、当該清算期間をその開始の日以後一箇月ごとに区分した各期間(最後に一箇月未満の期間を生じたときは、当該期間。以下この項において同じ。)ごとに当該各期間を平均し一週間当たりの労働時間が五十時間を超えない」と、「同項」とあるのは「同条第一項」とする。
(条文解説)
働き方改革関連法の施行により、2019年4月から清算期間の上限が、1カ月→3カ月に見直されました。
清算期間が1カ月を超える場合は、清算期間を1ヶ月ごとに区分して、各期間を平均して1週50時間を超えない範囲内で、法定労働時間を超えて勤務させることができます。




ただし、繁忙月などに極端に多く働かせることを防ぐため、1月あたりで週平均50時間を超える分は、法定外残業時間となり、割増賃金が発生します。
3項 完全週休二日制のフレックスタイム制




(条文前半)
一週間の所定労働日数が五日の労働者について第一項の規定により労働させる場合における同項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分(前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)中「第三十二条第一項の労働時間」とあるのは「第三十二条第一項の労働時間(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、
(条文解説・前半)
1週間の所定労働日数が5日の労働者(週休2日制)にフレックスタイム制を適用する場合に、労働者の過半数代表者(過半数労働組合)と労使協定を締結したときは、
(条文解説・後半)
労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数を同条第二項の労働時間に乗じて得た時間とする旨を定めたときは、当該清算期間における日数を七で除して得た数をもつてその時間を除して得た時間)」と、「同項」とあるのは「同条第一項」とする。
(条文解説・後半)
清算期間の所定労働日数に8時間を掛けた時間を総労働時間とする旨を定めて、清算期間を平均して1週40時間を超えて労働させることができます。3項の条文は分かりにくいので、具体例で確認します。
完全週休2日制の特例
これまでは、完全週休2日制の事業場でフレックスタイム制を導入した場合に、曜日の巡りによって、生産期間における総労働時間が、法定労働時間の総枠を超えてしまう場合がありました。2019年4月の法改正により、これが解消されました。
完全週休2日制の特例 具体例
下のカレンダーで、土日が休日(完全週休二日制)の事業場の例です。




1日の労働時間を8時間とするフレックスタイム制を導入した場合、法改正前と法改正後で比較してみます。
- 法改正前
-
- 清算期間における総労働時間=8時間×23日=184時間
- 法定労働時間の総枠=40時間÷7×31日=177.1時間
となり、残業の無い働き方をしたにも関わらず、時間外労働が発生してしまいました。
- 法改正後
-
- 清算期間における総労働時間=8時間×23日=184時間
- 法定労働時間の総枠=8時間×23日=184時間
となり、清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠に収まります。
4項 フレックスタイム制の労使協定の届出
前条第二項の規定は、第一項各号に掲げる事項を定めた協定について準用する。ただし、清算期間が一箇月以内のものであるときは、この限りでない。
(条文解説)
労働基準法の改正で、1カ月を超える清算期間を設定する場合は、労使協定の提出が義務付けられました。従来通り、清算期間を1カ月以内で設定している場合は届け出の必要がありません。
労働基準法32条の3の2「フレックスタイム制の途中退職」条文




フレックスタイム制の途中退職
使用者が、清算期間が一箇月を超えるものであるときの当該清算期間中の前条第一項の規定により労働させた期間が当該清算期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第三十七条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。
(条文解説)
清算期間が1カ月を超えるフレックスタイム制を適用している場合に、勤務した期間が清算期間より短い労働者(途中入社、退社)については、勤務した期間を平均して1週40時間を超えた時間に対して、割増賃金を支払う必要があります。(賃金の全額払の原則)
1年単位の変形労働時間制についても同様です。
フレックスタイム制の途中退職の賃金清算 具体例




清算期間を3カ月にしている会社の例で、4~6月の3カ月間、以下の就業時間の実績であったとき。
- 4月:15時間超過
- 5月:10時間不足
- 6月:5時間不足
在籍している労働者については、清算期間内で割増賃金の支払いはありませんが、5月末で退職した労働者については、5時間分の割増賃金を支払わなければなりません。
労働基準法32条の3の1「フレックスタイム制」
法32条の3の2「フレックスタイム制の途中退職」まとめ
- フレックスタイム制とは、始業・終業の時間を労働者が自由に決めることができる働き方
- フレックスタイム制を採用するは、就業規則への明記と、労使協定の締結が必要
- 対象となる期間を清算期間といい、働き方改革施行により、上限が1カ月→3カ月になった
フレックスタイム制のデメリットは、清算期間における実労働時間の確認や、残業代の計算など、労働時間管理が複雑さです。また、ブラック企業などでは、労働時間管理を曖昧にすることで、労働者に長時間労働やサービス残業に強いることが問題になっています。
労働基準法32条の3「フレックスタイム制」社労士試験過去問と解説




条文だけでは、いまいち理解できないことが多いので、社労士試験の過去問で復習しましょう。
※答えは「解答・解説を見る」▼を押して確認してください。
H26年出題 就業規則の記載義務
労働基準法第32条の3に定めるフレックスタイム制の対象となる労働者については、就業規則において始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨の定めをし、また、フレックスタイム制においてコアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合には、これらに関する事項を就業規則で定めておけば、労働基準法第89条第1号に定める「始業及び終業の時刻」の就業規則への記載義務を果たしたものとされる。
出典:社労士過去問ランド
R1年出題 時間外労働
労働基準法第32条の3に定めるいわゆるフレックスタイム制について、清算期間が1か月を超える場合において、清算期間を1か月ごとに区分した各期間を平均して1週間当たり50時間を超えて労働させた場合は時間外労働に該当するため、労働基準法第36条第1項の協定の締結及び届出が必要となり、清算期間の途中であっても、当該各期間に対応した賃金支払日に割増賃金を支払わなければならない。
H30年出題 要件
常時10人以上の労働者を使用する使用者が労働基準法第32条の3に定めるいわゆるフレックスタイム制により労働者を労働させる場合は、就業規則により、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとしておかなければならない。
H30年出題 労働時間の過不足の繰越
労働基準法第32条の3に定めるいわゆるフレックスタイム制において、実際に労働した時間が清算期間における総労働時間として定められた時間に比べて過剰であった場合、総労働時間として定められた時間分はその期間の賃金支払日に支払い、総労働時間を超えて労働した時間分は次の清算期間中の総労働時間の一部に充当してもよい。
R2年出題 要件:労使協定
労働基準法第32条の3に定めるいわゆるフレックスタイム制を実施する際には、清算期間の長さにかかわらず、同条に掲げる事項を定めた労使協定を行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければならない。