【ブラック企業の特徴】変形労働時間制を理由に残業代を支払わない

変形労働時間制とは、一定の期間内での労働時間を柔軟に調整する制度です。その期間内であれば1日8時間を超えても、残業代を追加で支払わないというものです。
ただし変形労働時間制は、あくまで労働時間の前借り・後回しです。1カ月、1年あたりの法定労働時間が延びることはありません。
変形労働時間制を採用する理由
月末は忙しいが、月初から月半ばまでは比較的暇になるという会社の場合、業務の閑散に合わせた所定労働時間を設定することができるのが、変形労働時間制です。
この場合、月の前半の所定労働時間を少なく設定し、月の後半の所定労働時間を多く設定することで、月全体として労働時間を抑えることができます。
変形労働時間制採用のメリット・デメリットは?
- メリット
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会社は、残業代を抑えることができるのがメリットです。日々の労働時間が8時間を超えていたとしても、期間内の平均労働時間が法定労働時間内であれば、追加で残業代の支払いは必要ありません。
従業員側は、暇な時期は早く帰れるなど、メリハリのある働き方ができるということがメリットです。
- デメリット
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会社は、勤怠管理が複雑になることがデメリットです。急な就業時間・出勤日の変更を行うことで、勤怠計算や管理がややこしくなり、残業代の計算が間違える可能性があります。
会社都合の制度である感は否めません。ほとんどの場合、従業員が望む就業時間帯とは異なるためです。
変形労働時間制採用の企業は6割以上
厚生労働省の就労調査によると、変形労働時間制を採用している企業割合は、62%と半数を超える企業で採用されています。それだけ多くの企業で採用されていますが、多くの従業員は、採用されていることや、変形労働時間制の仕組みをよく知らないのが現実です。
変形労働時間制=残業代出ないは間違い!




制度を知らないことを悪用し、「変形労働時間制だから、残業代は出ない」と、サービス残業が当然の風潮を、ブラック企業は作り上げています。騙されてはいけません!
法律と具体例を確認し、正しい知識を得て、ブラック企業から身を守りましょう。
そもそも変形労働時間制であることを知らない




中堅ブラック建設会社
現場監督 新卒 チャッピー
上司と職人との間の板挟みに苦しむ。




中堅ブラック建設会社
所長 M
裏金づくりで自宅を建てた。






先月はかなり忙しくて、みなし残業時間(80時間)を大幅に超えているので、残業代を出してほしいですが…






当社は変形労働時間制を採用しているから、残業代なんか出るわけねーだろっ!






えっ?変形労働時間制とは初耳です!シフト表もなく、部長の出退勤に合わせて勤務しろと言われていましたが…






工期に合わせて、変形労働時間制の総枠を収めてるんだよ!工期は絶対!






常に工期に追われてて、年中繁忙期のような仕事。変形労働時間制を採用する理由は見当たらず、残業代を払いたくないという会社都合だけ!
ブラック企業に限らず、働いている会社が、変形労働時間制を採用していることを知らなかったという人は多いのではないでしょうか。
シフトの規則性が無い、頻繁にシフト変更があるなど、わざと労働時間の実態をわかりにくくしている会社は注意が必要です。残業代の支払いを逃れようとする、ブラック企業の可能性が高いです。
【条文とその解説】
条文の言い回しは、とくかく分かりづらいです。まず条文を読み、慣れましょう。
【条文に対応した社労士試験の過去問と解説】
社労士試験合格を目指す人、人事担当者・部下を持つ人なども、事例で学ぶことは多いです。






管理人は、ブラック企業歴25年・社労士試験を受けようと思ってのは10年前…。勉強がまったく捗らないときに考えたのが、
「ブラック企業あるあると、法律を関連付けて記憶する!」勉強法です。
日々試行錯誤しながら、学習しております。
労働基準法32条の2「1カ月単位の変形労働時間制」条文




1項 1カ月単位の変形労働時間制
(条文前半)
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、
(条文解説・前半)
1カ月単位の変形労働時間制を採用するためには、労使協定によらず、就業規則に規定することでも、採用することができます。常時労働者を10人以上使用している事業場は、就業規則作成義務があるため、これを労働基準監督署長に届け出なければなりません。
労働者9人以下の事業場については、就業規則作成義務はありませんが、変形労働時間制を採用する場合は、労使協定または就業規則に準ずるものに規定することが必要となります。
(条文後半)
一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
(条文解説・後半)
1カ月の法定労働時間(1週40時間以内)の範囲内であれば、1日8時間、週40時間を超える労働時間を設定できます。
2項 1カ月単位の変形労働時間制(労使協定)
使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。
(条文解説)
労使協定を締結して、1カ月単位の変形労働時間制を採用することにした場合は、その労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。
変形労働時間制を採用するには手続きが必要




使用者は、1カ月単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、1年単位の変形労働時間制を採用するときは、就業規則か労使協定で、規定が必要になります。
定める規定は以下の項目です。
- 変形期間(1カ月)
- 起算日(毎月1日から月末までの暦月によるなど、必ず1日スタートという決まりは無し)
- 変形期間の平均で1週間当たり法定労働時間を超えない定め
- 変形期間における各日、各週の労働時間(シフト表、勤務表など)
- 労使協定に定めた場合は、その有効期間の定め
派遣労働者の場合は、派遣元との労使協定または就業規則に準ずるものに規定することで採用が可能です。
1カ月単位の変形労働時間制採用の具体例
条文では分かりにくいので、具体例を挙げてみます。
ある会社では、月初は比較的業務が少なく、月末にかけて業務が集中するため、1カ月単位の変形労働時間制を採用しました。
以下の式で、週法定労働時間(40h/週)から、月間の法定労働時間を算出します。




起算日を定め、STEP①で算出した、月間法定労働時間を下回るよう勤務シフトを決めます。
例では、暦日数31日・起算日を1日とした場合で、1日の労働時間を6、8、10時間を組み合わせました。




月間の総労働時間の合計が177.1時間未満のため、上記の勤務シフトであれば問題ありません。ただし、実労働時間が月間法定労働時間を超えた場合は、法定外残業時間として、割増賃金が発生します。
こちらの記事を参考にしてください。




労働基準法32条の2「1カ月単位の変形労働時間制」まとめ
- 変形労働時間制とは、一定の期間内での労働時間を柔軟に調整する制度
- 1カ月変形労働時間制は、1カ月の法定労働時間の範囲内で、1日8時間週40時間を超えて労働時間を設定できる
- 労使協定によらず、就業規則に規定することで採用できるため、導入しやすい
変形労働時間制とシフト制を混合しがちですが、両者は異なります。シフト制は法定労働時間内で、複数の労働者が決められたシフトパターン(10-15、15-20など)で交代するもので、24h営業のコンビニなど多くの会社で採用されています。また使用者には、採用時に「シフト制である」ということを伝える義務があります。
労働基準法32条の2「1カ月単位の変形労働時間制」社労士試験過去問と解説




条文だけでは、いまいち理解できないことが多いので、社労士試験の過去問で復習しましょう。
※答えは「解答・解説を見る」▼を押して確認してください。
H29年出題 休日振替
1か月単位の変形労働時間制により、毎週日曜を起算日とする1週間について、各週の月曜、火曜、木曜、金曜を所定労働日とし、その所定労働時間をそれぞれ9時間、計36時間としている事業場において、あらかじめ水曜の休日を前日の火曜に、火曜の労働時間をその水曜に振り替えて9時間の労働をさせたときは、水曜の労働はすべて法定労働時間内の労働になる。
出典:社労士過去問ランド
H22年出題 要件:労働時間
労働基準法第32条の2に定めるいわゆる1か月単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定による定め又は就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、変形期間を平均して週40時間の範囲内であっても、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しない。
R1年出題 時間外労働
1か月単位の変形労働時間制により所定労働時間が、1日6時間とされていた日の労働時間を当日の業務の都合により8時間まで延長したが、その同一週内の1日10時間とされていた日の労働を8時間に短縮した。この場合、1日6時間とされていた日に延長した2時間の労働は時間外労働にはならない。
R1年出題 要件:手続
1か月単位の変形労働時間制は、就業規則その他これに準ずるものによる定めだけでは足りず、例えば当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合と書面により協定し、かつ、当該協定を所轄労働基準監督署長に届け出ることによって、採用することができる。
R1年出題 要件:起算日
1か月単位の変形労働時間制により労働者に労働させる場合にはその期間の起算日を定める必要があるが、その期間を1か月とする場合は、毎月1日から月末までの暦月による。
R1年出題 労働時間の限度
1か月単位の変形労働時間制においては、1日の労働時間の限度は16時間、1週間の労働時間の限度は60時間の範囲内で各労働日の労働時間を定めなければならない。
H18年出題 勤務ダイヤ
勤務ダイヤによるいわゆる1か月単位の変形労働時間制を就業規則によって採用する場合に、業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要があるときには、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定めておき、それにしたがって各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定すればよいこととされている。