法32条「労働時間の原則」着替え時間は労働時間?勤務時間との違い

出勤して制服に着替えてからタイムカードを打刻するように言われ、「着替え時間は、労働時間にならないのか?」と、モヤモヤする人も多いのではないでしょうか?
着替え時間が労働時間かどうかを考える前に、そもそも「労働時間の定義」を確認する必要があります。この記事では、労働基準法32条「労働時間の原則」について、わかりやすく解説します。
労働時間とは「会社の指揮命令下にある時間」




労働基準法上の定義は、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下にある時間をいい、指揮命令下にあるか否かは客観的に定まる」とされています。つまり労働のために自由に利用できない時間が労働時間です。
着替え時間は労働時間ではない
しかし、過去の判例では、OLが私服から制服に着替える時間は労働時間に認められず、作業する上で義務付けられる保護具(ヘルメット、安全靴)の装着時間は労働時間になると解釈されています。
過去の判例をもとに具体例を挙げます。
- 労働時間になる
-
- 作業の準備や後片付け
- 朝礼、夕礼、ミーティング
- 作業する上で義務付けられる保護具(ヘルメット、安全靴)の装着時間
- 荷降ろしのために、運搬車が到着するのを待っている手待ちの時間
- 劣悪な環境で作業を行うために受ける、特定健康診断の受診時間
- 昼休憩の電話当番
- 参加が強制されている研修・勉強会
- 労働時間にならない
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- 制服などの着替えの時間
- 出張時の移動(通勤時間と同じ扱い)
- 年に一度職場で受ける、健康診断の受診時間
- 休憩時間(労働者が自由に使用できる時間)
- 自由参加の研修・勉強会
今勤務している会社で、「労働時間になる」とされているものほとんどが、給料に反映されていないのであれば、ブラック企業の素質ありかもしれません。
労働時間と勤務時間の違い




「働く時間」を指すときに、労働時間とは別に勤務時間と言うことも多いです。同じように使ってしまいがちです。違いを確認します。
勤務時間は拘束時間
勤務時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間のことです。拘束時間ともいい、休憩時間を含めた時間を指します。通常は就業規則に定められています。また「就業時間」や「就労時間」も法律上は、勤務時間と同じ意味で使われます。
労働時間は休憩時間を引いた時間
また労働時間とは、勤務時間から休憩時間を引いた時間のことをいい、実労働時間ともいいます。
労働時間の上限は1日8時間、週に40時間




労働基準法法32条には、労働時間の原則として1日、1週間の働くことができる上限が示されています。条文を確認しましょう。
1項 労働時間の原則(1週40時間)
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
2項 労働時間の原則(1日8時間)
使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
労働基準法の原則では、1日8時間、週に40時間を超えて労働させることができません。法律で定めた時間なので、法定労働時間といいます。ただし、36協定を締結して、労働基準監督署に届出をすれば、1日8時間、週40時間を超えて労働させることができます。
また1日とは、0時から24時までの暦上の1日をいいます。




ただし、労働者が常時10人未満の小売業や旅館などは、週の労働時間が44時間まで認められる例外規定があります。あわせて確認してください。




また、兼業・副業・ダブルワークなどで、複数の会社で仕事をする場合は、労働時間が通算される点も注意が必要です。
法32条「労働時間の原則」着替え時間は労働時間?勤務時間との違い まとめ
- 制服に着替えるだけであれば、労働時間にならない
- 労働時間とは、会社の指揮命令下にある時間で、休憩時間は含まない
- 勤務時間とは、休憩を含めた拘束時間をいい、就業時間ともいう
- 労働基準法で定める労働時間の原則(上限)は、1日8時間、週に40時間までで法定労働時間という
社会人になると、1日の大部分を占める労働時間。この時間がつらいと、生きていること自体が嫌になります。「好きを仕事」というのはなかなか難しいですが、自分にとって「ストレス無く、続けられる仕事」を諦めず探すべきでしょう。




労働基準法32条の1「労働時間の原則」社労士試験過去問と解説




条文だけでは、いまいち理解できないことが多いので、社労士試験の過去問で復習しましょう。
※答えは「解答・解説を見る」▼を押して確認してください。
常時10人未満の労働者を使用する小売業では、1週間の労働時間を44時間とする労働時間の特例が認められているが、事業場規模を決める場合の労働者数を算定するに当たっては、例えば週に2日勤務する労働者であっても、継続的に当該事業場で労働している者はその数に入るとされている。
出典:社労士過去問ランド
ビルの巡回監視等の業務に従事する労働者の実作業に従事していない仮眠時間についても、労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるとするのが最高裁判所の判例である。
出典:社労士過去問ランド
労働基準法第32条第2項にいう「1日」とは、午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいい、継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とする。
出典:社労士過去問ランド
労働基準法第32条第1項は、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。」と定めているが、ここにいう1週間は、例えば、日曜から土曜までと限定されたものではなく、何曜から始まる1週間とするかについては、就業規則等で別に定めることが認められている。
出典:社労士過去問ランド
労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときであっても、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合には、当該行為に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当しないとするのが、最高裁判所の判例である。
出典:社労士過去問ランド
労働安全衛生法に定めるいわゆる一般健康診断が法定労働時間外に行われた場合には、使用者は、当該健康診断の受診に要した時間について、労働基準法第37条第1項の規定による割増賃金を支払う義務はない。
出典:社労士過去問ランド
運転手が2名乗り込んで、1名が往路を全部運転し、もう1名が復路を全部運転することとする場合に、運転しない者が助手席で休息し又は仮眠している時間は労働時間に当たる。
出典:社労士過去問ランド
労働者を就業規則に定める休憩時間に来客当番として事務所に待機させたが、その時間に実際に来客がなかった場合には、休憩時間以外の労働時間が法定労働時間どおりであれば、使用者は、労働基準法第37条第1項の規定による割増賃金を支払う義務はない。
出典:社労士過去問ランド
労働者が使用者の実施する教育、研修に参加する時間を労働基準法上の労働時間とみるべきか否かについては、就業規則上の制裁等の不利益な取扱いの有無や、教育・研修の内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことにより本人の業務に具体的な支障が生ずるか否か等の観点から、実質的にみて出席の強制があるか否かにより判断すべきものである。
出典:社労士過去問ランド
労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかであり、使用者が行う始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法としては、使用者が自ら現認することにより確認し、適正に記録すること又はタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し記録することが求められている。
出典:社労士過去問ランド
労働基準法第32条の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」とするのが、最高裁判所の判例である。
出典:社労士過去問ランド






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