労働基準法24条「賃金支払いの5原則」口座振込は通貨払いの例外

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労働基準法24条「賃金支払いの5原則」口座振込は通貨払いの例外

この記事では、労働基準法24条「賃金支払いの5原則」について、わかりやすく解説します。

法24条は、賃金が労働者に対して確実に支払われるよう、5つの原則を定めており、給与計算はこの原則を前提に行われます。それぞれの原則ごとに例外が定められています

1.国内の通貨(円)
2.直接的な形式(手渡し)で
3.全額
4.毎月1回以上の頻度で
5.明確な期日を設定して支払わなければならない。

例えば、賃金は通貨で支払わなければならない「通貨払いの原則」の例外が、口座振込による給与の支払いです。ほとんどの会社で、給与を口座振込で受け取っていますが、労働者から同意を得た場合にのみ、労働者が指定した口座に振込むことが認められています。

それぞの例外も併せて条文で確認します。

かんりにん

管理人は、ブラック企業歴25年・社労士試験を受けようと思ってのは10年前…。勉強がまったく捗らないときに考えたのが、
ブラック企業あるあると、法律を関連付けて記憶する!」勉強法です。
日々試行錯誤しながら、学習しております。

労働基準法24条「賃金の支払」条文

1項 賃金の支払

(条文前半)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、(後半に続く)

出典:労働基準法 | e-Gov法令検索

(条文解説・前半)
賃金は通貨で、労働者本人に直接全額を支払わなければなりません。ただし、労働組合がある会社で労働協約で定めている場合は、現物支給で支払うことが例外的に認められています。

(条文後半)
また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

(条文解説・後半)
法律に基づくもの(下記の全額払いの原則・参照)、労働者の過半数代表者と労使協定で、賃金から控除すると取り決めたものは、賃金から控除することができます。この場合の労使協定については、届け出は不要です。

これらの原則は、労働者の生活上の不安を防ぎ、定期的な収入を確保するために決められたものです。

1項には、5原則のうち、次の3つの原則の内容が示されています。

1.通貨払いの原則

給与は必ず通貨で支払われる必要があり、現物支給は禁止されます。定期券や食材や在庫商品などで給料代わりにすることは認められません。

原則は現金支払ですが、例外として口座振込にて支払うことができます。その際には、労働者の書面での同意が必要です。(労働者に振込先の銀行口座を指定してもらえたら、振込に同意したものと考えられます。)

通貨払いの原則の例外

労働組合のある企業では、労働協約を締結することによって、例外的に現物支給を行うことが認められます。具体例では、労働協約に別段の定めがある場合、定期券を渡すことで、通勤手当と代えることができます。ただし、その労働協約を結んでいる労働組合の組合員に限ります。

現物支給をする際の注意点

定期以外の現物支給をする際は、「換金性がある」「受給者側に物品などの選択の余地がある」など、ルールがあります。会社の在庫などを一方的に現物支給されるケースは、法24条違反となります。

2.直接払いの原則

給料は、必ず労働者本人に対して支払わねばなりません。これは、かつて人夫供給を業とする親方等が賃金をピンハネしたり、子どもの賃金を親が食い物にするなど前時代的中間搾取の弊害を改める趣旨の規定です。未成年者であっても、親権者が代わりに受け取ることはできません。

直接払いの原則の例外

労働者が病気などで欠勤して自ら給料を受け取れないケースでも、家族が一切賃金を受けとれないのは不合理です。このような場合、家族を「代理人」ではなく単なる「使者」と扱い、賃金を家族に支払っても直接払いの原則に反しないと考えられています。

使者とは
民法上、本人が既に決定している意思を相手方に表示、または本人の意思表示を相手方に伝達する人のことをいいます。
代理か使者かを区別することは実際上困難な場合が多いですが、社会通念上、本人に支払うのと同一の効果を生ずるような者であるか否かによって、決定すべきことになります。

3.全額払いの原則

賃金は、必ず全額まとめて支払う必要があり、分割払いは認められません。ただし税金や厚生年金保険料、健康保険料や介護保険料、雇用保険などの社会保険料など法律に基づく控除については、賃金からの差引きが認められます。

全額払いの原則の例外

労使協定を結んでいる場合、社宅料や物品の代金を差引くことが認められています。

以下のものは、全額払いの原則に違反しません。

  • 欠勤、遅刻、早退など労働しなかった時間について、賃金を支払わないこと
  • 賃金の一部を前払いしたときに、その分を差し引くこと

労働協約と労使協定の違い

残業時間などの取り決めをする「36協定」のような労使協定と、「賃金支払いの5原則」い登場する労働協約の違いです。

  • 労働協約は、労働組合に加入している組合員に対して効力がある
  • 労使協定は、事業場に勤務しているすべての労働者に効力がある

労使協定全般は、免罰的効力を有するが、民事的効力を有するものではないと言われます。

免罰的効力

免罰的効力とは、罰則の適用を受けないということに過ぎず、強制力はありません。36協定の締結は、残業や休日労働の規制が解除され、労働基準法違反とならなくなります。

民事的効力

民事的効力とは、誰かに何かを義務化させるものです。36協定を締結していたとしても、労働者に残業や休日労働を強制的に、命じることができるというものではありません。

2項 一定期日払い

賃金は、毎月一回以上一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない

(条文解説)
賃金は毎月1回以上、定めた日に支払わないといけません。臨時的な、賞与・退職金などはこの原則にあてはまりません。

2項には、5原則のうち、残り2つの原則の内容が示されています。

4.毎月1回以上の原則

「1か月に1回以上」とは、暦月で毎月1日から月末までの間に少なくとも1回以上の支払日を設ける事を意味します。

1回以上あれば良いので月2回給料の支払日があってもかまいませんが、2か月に1回や1か月半に1回の支払いは違法となります。年俸制であっても、月給制と同じように、毎月25日というように決めて支払う必要があります。

月給制とは
月のうち、欠勤、遅刻、早退など働かない時間があっても、減額しない制度。
日給月給制とは
欠勤、遅刻、早退など働かない時間があれば、その時間に応じて減額する制度。

5.一定期日払いの原則

賃金は、一定の期日に支払う必要があります。労働者に賃金受取日を予測させて、生活やその他の資金繰りをしやすくする目的です。「一定期日」という場合、「毎月20日」や「毎月25日」と日にちを指定するか、「毎月末日」と定める方法も認められます。

一定の期日とは
期日は特定され、周期的に到来するものでなければならないとされています。

ブラック企業の例外「仮想通貨払い」

ブラック・浄水器販売会社
営業部 新卒 チャッピー
「だまして売る」ことに対する良心の呵責に苛まれる。

ブラック・浄水器販売会社
営業部長 M 「お前の代わりなんて、いくらでもいるんだよ!」が口癖。

チャッピー

給料の振込確認しましたが、少ない給料がさらに少ないですが…

M部長

昨日社長がオンラインサロンで、「給料の一部を仮想通貨で支払う」と仰ってただろ!

チャッピー

いや、あんな会費の割高オンラインサロン入ってませんし…仮想通貨ってビットコインですか?

M部長

ビットコインじゃない、「ムゲンコイン」だ。いずれ給料のすべてをムゲンコインで支払う。

ムゲンコインとは
ブラック・浄水器販売会社で発行する「おもちゃのお金」のようなもの。価値はありません。

チャッピー

いえ、円でお願いします…

仮想通貨とは
発行主体や中心的な管理者(銀行のようなところ)は存在せず、世界中の利用者の信用に基づいて価値が担保されている。物理的な実体は存在せず、インターネット上の電子データのみの存在。

2018年にGMOが、給与の一部をビットコインで受け取れる制度を導入したことが話題になりました。今後法定通貨の代替として使用される可能性もあります。

仮想通貨による給料の支払いは、法24条の「通貨払いの原則の例外」の手順を踏めば可能です。

労働基準法24条「賃金の支払」まとめ

  • 賃金が労働者に対して確実に支払われるように「賃金支払いの5原則」を規定している
  • 5原則とは、①賃金を通貨で、②労働者に直接、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払う
  • 口座振込による賃金の支払いは、通貨払いの例外にあたる

労働基準法24条「賃金の支払」社労士試験過去問と解説

条文だけでは、いまいち理解できないことが多いので、社労士試験の過去問で復習しましょう。
※答えは解答・解説を見る」▼を押して確認してください。

R1年出題 通貨払いの原則:通貨以外

労働基準法第24条第1項は、賃金は、「法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、通貨以外のもので支払うことができる。」と定めている。

出典:社労士過去問ランド

H29年出題 通貨払いの原則:労働協約

労働協約の定めによって通貨以外のもので賃金を支払うことが許されるのは、その労働協約の適用を受ける労働者に限られる。

H28年出題 通貨払いの原則:口座の指定と同意

使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について当該労働者が指定する銀行口座への振込みによることができるが、「指定」とは、労働者が賃金の振込み対象として銀行その他の金融機関に対する当該労働者本人名義の預貯金口座を指定するとの意味であって、この指定が行われれば同意が特段の事情のない限り得られているものと解されている。

H30年出題 直接払いの原則:派遣労働者

派遣先の使用者が、派遣中の労働者本人に対して、派遣元の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、労働基準法第24条第1項のいわゆる賃金直接払の原則に違反しない。

H28年出題 直接払いの原則:賃金債権

労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合でも、使用者は当該賃金債権の譲受人に対してではなく、直接労働者に対し賃金を支払わなければならないとするのが、最高裁判所の判例である。

H27年出題 直接払いの原則:賃金の控除

労働基準法第24条第1項に定めるいわゆる賃金直接払の原則は、例外のない原則であり、行政官庁が国税徴収法の規定に基づいて行った差押処分に従って、使用者が労働者の賃金を控除のうえ当該行政官庁に納付することも、同条違反となる。

H20年出題 全額払いの原則:控除

使用者は、賃金の全額を支払わなければならないが、労働協約に別段の定めがある場合に限って、賃金の一部を控除して支払うことができる。

R1年出題 全額払いの原則:退職金債権の放棄

賃金にあたる退職金債権放棄の効力について、労働者が賃金にあたる退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合、それが労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、当該意思表示は有効であるとするのが、最高裁判所の判例である。

H29年出題 全額払いの原則:調整的相殺

賃金の過払を精算ないし調整するため、後に支払われるべき賃金から控除することは、「その額が多額にわたるものではなく、しかもあらかじめ労働者にそのことを予告している限り、過払のあつた時期と合理的に接着した時期においてされていなくても労働基準法24条1項の規定に違反するものではない。」とするのが、最高裁判所の判例である。

H29年出題 全額払いの原則:端数処理

1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額。)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払う事務処理方法は、労働基準法第24条違反としては取り扱わないこととされている。

H22年出題 全額払いの原則:賞与支給日在籍要件

賞与を支給日に在籍している者に対してのみ支給する旨のいわゆる賞与支給日在籍要件を定めた就業規則の規定は無効であり、支給日の直前に退職した労働者に賞与を支給しないことは、賃金全額払の原則を定めた労働基準法第24条第1項に違反するとするのが最高裁判所の判例である。

H30年出題 毎月1回以上払いの原則:年俸制

労働基準法では、年俸制をとる労働者についても、賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないが、各月の支払いを一定額とする(各月で等分して支払う)ことは求められていない。

R1年出題 一定期日払いの原則

労働基準法第24条第2項にいう「一定の期日」の支払については、「毎月15日」等と暦日を指定することは必ずしも必要ではなく、「毎月第2土曜日」のような定めをすることも許される。

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