簡単にクビにできない!法19条は解雇そのものができない制限期間

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簡単にクビにできない!法19条は解雇そのものができない制限期間

どの職場にも「使えない社員」はいます。しかし、「お前は明日からクビだ!」とはなかなか言えず、正当な理由のない解雇は無効になってしまいます。解雇をすること自体、ハードルが高いものですが、法19条は、解雇そのものができない制限期間を示した条文です。

この記事では、労働基準法19条「解雇制限」について、わかりやすく解説します。

解雇とは

使用者の一方的意思表示による、労働契約の解除を「解雇」といいます。労働者が同意しているかどうかは関係ありません。解雇をする場合は、誰が見ても合理的な(理にかなっている)解雇理由がある場合にのみ認められており、以下の2点どちらも満たす必要があります。

客観的で合理的な理由

一個人ではなく、周りから見ても「ちゃんとした理由」があるか。

社会通念上の相当性

裁判官が認定する、一般常識的な考え方・見解のことです。解雇の妥当性は、会一般の常識に照らして「ふさわしい」と裁判官が判断します。

解雇が認められる具体例

・会社のお金を横領する、同業他社への情報の流出などの犯罪行為
・長期の無断欠勤・無断遅刻を繰り返し、反省しない態度

会社が解雇をするリスク

世界に比べて日本は、「従業員をクビにするのが難しい」と言われます。その理由の一つが、使用者側(会社)が労働者を解雇するときに発生するリスクです。

  • 解雇予告手当を支払わなければならない
  • 法律上簡単に解雇できないため、裁判で訴えられる可能性がある
  • キャリアアップ助成金やトライアル雇用助成金など、各種助成金の支給が認められなくなったりする

そのため多くの企業では、解雇ではなく退職勧奨にて自主退職に導きます。解雇は法的な基準が厳しいですが、「退職勧奨」はそこまで厳しく制限されていないためです。

退職勧奨(たいしょくかんしょう)とは

会社が労働者に対し、定年前に退職を勧めることです。退職金の割増しなどの優遇措置を含んだ早期退職優遇制度などもこれに含まれます。退職勧奨の場合は、「会社都合退職」となります。

労働者は必ず退職しなければならなくなるわけではなく、退職するかどうかは、あくまで労働者の任意となります。しかし、最近では不景気の影響もあり、勧奨ではなく強制的に「自主退職」を迫られるケースも多くなっています。

退職勧奨という名目の「追い出し部屋」

大手不動産会社
営業部 新卒 チャッピー
地道に営業するタイプ。

大手不動産会社
営業部長 M
数字だけすべて。

大手不動産会社
営業部 中堅 イワオ
最近数字がとれない。

大手不動産会社
コンプライアンス室 
いちおう法律順守。

チャッピー

最近のイワオ先輩、絶不調だ。営業成績が悪いな…

M部長

イワオ、お前今月のノルマわかってんの?達成できないなら死ね。死にたくなければ、達成するまで帰ってくるな。

イワオ

あわわわ…。

休日を返上、睡眠時間を削って働き続けるも、ノルマには大きく未達!

M部長

しゅくせぃーーー(粛清)
※クビという意味

粛清とは
厳しく取り締まり不正な者を排除すること。独裁政党などで、内部の反対派を追放すること。

M部長、最近解雇をしまくってるので、控えた方がいいかと。助成金の支給が止められてしまいます。

M部長

くっ…助かったな、いわお。それでは、地下王国建国推進事業部へ異動を命じる!

イワオ

はい、わかりました。

チャッピー

社長が「漫画カイジ」を読んで影響を受け、プロジェクトを始めた恐怖の「地下王国建国推進事業部」。いわゆる「追い出し部屋」…イワオ先輩、大丈夫かな…

追い出し部屋とは
退職させたい社員を、自主退職に追い込もうとするために、単調な作業や過酷な労働環境に異動させる手段のこと。

簡単にクビにできない制度であるため、多くの労働者が自主退職に追いやられています。退職させるために、過酷な環境や、単純労働の部署に異動させるなどしますが、使用者は、「人事権を行使しただけ」と主張します。

雇用契約終了の種類

解雇の他に雇用契約が終了する場合を挙げます。

  • 労働者が一方的に雇用契約を解除する場合(自主退職、辞職)
    使用者が合意しているかどうかは問わない
  • 労働者と使用者が双方の合意で、雇用契約を解除する場合(合意退職)
  • 労働契約期間の終了(有期労働契約の場合)
  • 定年退職
かんりにん

管理人は、ブラック企業歴25年・社労士試験を受けようと思ってのは10年前…。勉強がまったく捗らないときに考えたのが、
ブラック企業あるあると、法律を関連付けて記憶する!」勉強法です。
日々試行錯誤しながら、学習しております。

労働基準法19条「解雇制限」条文

1項 解雇制限

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

出典:労働基準法 | e-Gov法令検索

(条文解説)
仕事が原因の怪我や病気で会社を休んでいる期間と、その後の30日間は解雇することはできません。理由は、仕事が原因で労働者がケガをした場合、その責任は使用者にあるためです。

また、産前産後休業の期間(産前6週間と産後8週間)とその後の30日間も解雇できません。解雇制限である30日(1カ月)は、猶予期間として設定されています。

猶予期間とは
権利や権力を実行する時期を先送りし、余裕を与える期間のこと。

解雇制限の解除とは

上記の期間中は解雇ができませんが、例外があります。打切補償を支払った場合、地震などの天災が原因で事業を継続できなくなった場合は、解雇制限が解除されます。

打切補償とは
労災保険の補償で、仕事が原因のケガや病気で会社を休んで3年経っても治らないときに、1,200日分平均賃金を使用者が支払って、使用者の補償責任を免れるというものです。この場合の認定は不要です。

契約期間満了の解雇制限

解雇制限中に契約期間満了日が来た場合、契約更新がされた事実がない限り、労働者を辞めさせても違反にはならないとされています。

2項 解雇制限の除外認定

前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

(条文解説)
解雇制限に該当する労働者がいるときに、地震などの不可抗力が原因で事業を継続できなくなったことを理由として解雇をする場合は、労働基準監督署の認定を受ける必要があります。

労働者の責に帰すべき事由の場合

解雇制限期間中に、労働者の責に帰すべき事由があった場合であっても、解雇制限は解除されません。

労働者の責に帰すべき事由とは
労働者の故意・過失またはこれと同視すべき事由を指します。故意は「わざと」「意図的に」、過失は「うっかり」といった意味で使われます。

労働基準法19条「解雇制限」まとめ

  • 労働者保護の観点から、簡単にクビ(解雇)できない
  • 仕事が原因の怪我や病気で休んでいる期間、産前産後休業期間とその後30日間は解雇できない
  • 打切補償を支払うか、地震などの天災で事業を継続できない場合は、解雇制限が解除される

労働基準法19条「解雇制限」社労士試験過去問と解説

条文だけでは、いまいち理解できないことが多いので、社労士試験の過去問で復習しましょう。
※答えは解答・解説を見る」▼を押して確認してください。

H23年出題 罰則

客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇をした使用者は、労働基準法に基づき、罰則に処される。

出典:社労士過去問ランド

H27年出題 業務上の負傷・疾病による休業

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後の30日間は、労働基準法第81条の規定によって打切補償を支払う場合、又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となりその事由について行政官庁の認定を受けた場合を除き、労働者を解雇してはならない。

R2年出題 やむを得ない事由

使用者は、労働者を解雇しようとする場合において、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」には解雇の予告を除外されるが、「天災事変その他やむを得ない事由」には、使用者の重過失による火災で事業場が焼失した場合も含まれる。

H26年出題 産前産後の休業:起算日

労働基準法第19条第1項に定める産前産後の女性に関する解雇制限について、同条に定める除外事由が存在しない状況において、産後8週間を経過しても休業している女性の場合については、その8週間及びその後の30日間が解雇してはならない期間となる。

R1年出題 産前産後の休業:休業の請求のない場合

使用者は、女性労働者が出産予定日より6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)前以内であっても、当該労働者が労働基準法第65条に基づく産前の休業を請求しないで就労している場合は、労働基準法第19条による解雇制限を受けない。

H30年出題 解雇予告期間中の業務上の負傷

労働基準法では、使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならないと規定しているが、解雇予告期間中に業務上負傷し又は疾病にかかりその療養のために休業した場合には、この解雇制限はかからないものと解されている。

H26年出題 定年と解雇

就業規則に定めた定年制が労働者の定年に達した日の翌日をもってその雇用契約は自動的に終了する旨を定めたことが明らかであり、かつ、従来この規定に基づいて定年に達した場合に当然労働関係が終了する慣行になっていて、それが従業員にも徹底している場合には、その定年による雇用関係の終了は解雇ではないので、労働基準法第19条第1項に抵触しない。

H24年出題 予告期間中の療養:解雇制限

使用者が労働者を解雇しようとする日の30日前に解雇の予告をしたところ、当該労働者が、予告の日から5日目に業務上の負傷をし療養のため2日間休業した。当該業務上の負傷による休業期間は当該解雇の予告期間の中に納まっているので、当該負傷については労働基準法第19条の適用はなく、当該解雇の効力は、当初の予告どおりの日に発生する。

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