法18条「強制貯金の禁止」会社が勝手に給料から天引きすると違法

この記事では、労働基準法18条「強制貯金の禁止」について、わかりやすく解説します。毎月の給与明細は、確認していますか?思ったより手取りが少ない場合、会社が勝手に給料から天引きをしている可能性があります。
会社が勝手に天引きしたら「違法」
法律上、給料から天引きしてもいいのは、所得税などの税金、社会保険料・雇用保険料のみです。給料から天引きをするには、労働者の間に労使協定が結ばれていなければなりません。労使協定が無い場合、労働基準法18条の強制貯金の禁止に違反します。
給料の天引きや、会社が指定した口座への預金の強要して集めたお金は、会社の運転資金に使われるかもしれません。最悪の場合、それら積立金や預金が返ってこないこともあるため、労働基準法で禁止しています。
ブラックな使途不明天引き






毎月、浄水積立金という名目で「-10,000円」も給与から天引きされてますが…旅行積立金とかですか?






あ、あれな…確定拠出年金みたいなものだ。






運用先とか自分で決めた覚えがないですが…私の分はどうなっているのでしょうか??






実は、お前の拠出金、仮想通貨に全部ぶっこんで溶かしちゃったんだよね!うまくいくと思ったけど…難しいもんだな…






すぐに返してください!
「強制貯金」とは同意無しで貯金させる労働契約




条文では次のように記されています。
1項 強制貯金の禁止
使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
社内預金は原則禁止で、採用時に社内預金の約束をさせたり、通帳や印鑑を保管する約束をすることを禁止しています。
禁止の理由としては、経営危機の際に貯蓄金を使い込み、お金が返ってこないなど、退職の足止めになるためです。ただし、労働契約に付随せずに、次の第2項の条件を満たす場合は認められます。
働く人が望めば「社内預金」は認められる




2項 貯蓄金管理の労使協定
使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
労働者の意思(任意)で貯蓄金を使用者に委託する「任意貯蓄」は認められています。任意貯蓄をするには、労使協定を締結して、これを労働基準監督署に届け出をする必要があります。
また、4/1~3/31の1年間の管理状況を4/30までに労働基準監督署に報告をしなければなりません。
任意貯蓄とは「社内預金制度」です。労働者・使用者それぞれに次のようなメリット・デメリットがあります。
- 労働者のメリット
-
- 銀行の定期預金に比べて利息が高い
大手銀行の定期預金の利率は約0.01%に対して、厚生労働省令で定める利率(下限利率)は、0.5%です。(4項参照) - 預金管理の手間がかからない
給与から自動的に天引きされるため、口座を移し替える手間がかかりません。
- 銀行の定期預金に比べて利息が高い
- 使用者のメリット
-
- 預金を運転資金等として活用できる
銀行などの借入金利よりも低金利で運転資金を確保できます。 - 会社の福利厚生の一つになる
社内預金制度で、募集に記載したり定着率向上につながります。
- 預金を運転資金等として活用できる
労働者・使用者、双方にメリットがありますが、デメリットは、運用の管理がとてもややこしいということです。また、返還されないことを防ぐため様々なルールを設けており、3項から7項で記しています。
社内預金をするためのルール




3項 貯蓄金の管理規程
使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合においては、貯蓄金の管理に関する規程を定め、これを労働者に周知させるため作業場に備え付ける等の措置をとらなければならない。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
使用者は、貯蓄金の管理規定の作成し、労働者に周知(知らせる)する必要がありますが、労働基準監督署への届出については不要です。
4項 貯蓄金の利子
使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入であるときは、利子をつけなければならない。この場合において、その利子が、金融機関の受け入れる預金の利率を考慮して厚生労働省令で定める利率による利子を下るときは、その厚生労働省令で定める利率による利子をつけたものとみなす。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
使用者は、社内預金の場合「年0.5%以上の利子をつける」必要があり、金利は毎年見直しが行われます。
5項 貯蓄金の返還
使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、労働者がその返還を請求したときは、遅滞なく、これを返還しなければならない。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
社内預金を労働者がその返還を求めたときは、遅滞なく利子を含めて返還しないといけません。
6項 貯蓄金の中止命令
使用者が前項の規定に違反した場合において、当該貯蓄金の管理を継続することが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、行政官庁は、使用者に対して、その必要な限度の範囲内で、当該貯蓄金の管理を中止すべきことを命ずることができる。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
社内預金を使用者が返還しなかった場合は、労働基準監督署は使用者に対して、貯蓄金の管理の中止を命じることができます。条文の中の、「その必要な限度の範囲内」とは、労働者の範囲のことを指し、労働者個人の預金額の範囲ではありません。
7項 貯蓄金の返還命令
前項の規定により貯蓄金の管理を中止すべきことを命ぜられた使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
条文そのままですが、貯蓄金の管理の中止を命じられた使用者は、遅滞なく労働者に貯蓄金を返還しないといけません。
法18条「強制貯金の禁止」会社が勝手に給料から天引きすると違法 まとめ
- 社員旅行の積み立てなどで、会社が勝手に給料から天引きしたら違法
- 「強制貯金」とは、給料の一部を労働者の同意無しで貯金させる労働契約のこと
- 労働者が希望する社内預金(任意貯蓄)は労使協定の締結と届け出をすれば認められる
労働基準法18条「強制貯金の禁止」社労士試験過去問と解説




条文だけでは、いまいち理解できないことが多いので、社労士試験の過去問で復習しましょう。
※答えは「解答・解説を見る」▼を押して確認してください。
使用者は、労働者の福祉の増進を図るため、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定に基づき、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をすることができる。
出典:社労士過去問ランド
中小企業等において行われている退職積立金制度のうち、使用者以外の第三者たる商店会又はその連合会等が労働者の毎月受けるべき賃金の一部を積み立てたものと使用者の積み立てたものを財源として行っているものについては、労働者がその意思に反してもこのような退職積立金制度に加入せざるを得ない場合でも、労働基準法第18条の禁止する強制貯蓄には該当しない。
出典:社労士過去問ランド
労働基準法第18条第5項は、「使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、労働者がその返還を請求したときは、4週間以内に、これを返還しなければならない」と定めている。
出典:社労士過去問ランド






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