会社都合の休み「休業手当」支払時に使用する「平均賃金」の計算方法

「仕事が休みになったけど、給料は支払われる?」新型コロナウイルス感染症の影響などで、仕事が休みになった場合、休業手当の支払いが発生する場合があります。
その休業手当の算定する際や、雇用調整助成金申請の際には、平均賃金を用います。この記事では、労働基準法12条「平均賃金の定義」と計算方法について、わかりやすく解説します。
- 休業手当
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労働基準法26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
- 雇用調整助成金
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雇用調整助成金とは、業績悪化などでやむを得ず従業員に休業をさせる場合に、休業手当等の一部(一定の要件を満たす場合は全部)が国によって 助成される制度です。
平均賃金を使用する場面
平均賃金は、他にも労働基準法の中で色々な場面で使用します。有給休暇中の賃金、解雇予告手当、休業補償などの額の算定に使用します。平均賃金を簡単に言うと、「給料の1日当たりの額」です。






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労働基準法12条「平均賃金の定義」条文




平均賃金の定義
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
(条文解説)
労働基準法で使用者が労働者に、解雇予告手当、休業手当、休業補償等を支払う場合に、その基準額として「平均賃金」を定義しています。平均賃金の30日分や平均賃金の6割など、それぞれの場面で設定されています。
平均賃金は、過去3カ月分の賃金の合計を、その対象となる3カ月の暦日数で割って出た金額とします。計算方法は、3カ月の賃金総額を、休日も含めた3カ月の暦日数で割って1日分を算出します。




計算式に登場する算定事由発生日とは、「平均賃金を算定しなければならない事由が発生した日」であり、平均賃金を計算する際の基準となる日です。それぞれの算定事由発生日を挙げてみます。
- 解雇予告手当
- 解雇通告日
- 休業手当
- 休業開始日
- 災害補償
- 事故発生日、または診断で疾病の発生が確定した日
ただし、算出された平均賃金が、次の各号で計算した金額を下回ってはいけません。
1号 賃金の全部が日給制等によって定められた場合
賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
(条文解説)
日給・時給・出来高払い・請負制の場合の最低保証額です。




2号 賃金の一部が月給制等によって定められた場合
賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
(条文解説)
月給、日給を併用している場合の最低保証額です。別々で計算したあとに合算します。
例)基本給は日給制で、手当は月給制など




平均賃金の計算方法
労働基準法では平均賃金を用いて、算定しなければならないものを規定しています。使用する場面は、以下の表となります。




計算時の注意点
- 算定事由発生日は、計算に含まない
- 算定事由発生日を含むと、平均賃金が低くなるため(労働者が不利になるため)
- 総日数は、暦日数を意味し、休日や欠勤日も含まれる
- 賃金支払日がある場合は、直前の賃金締切日が起算日
- 賃金毎に賃金締切日が異なる場合(基本給と時間外手当など)、直前の賃金締切日は、それぞれ各賃金ごとの賃金締切日となる
- 基本給のみならず、家族手当、通勤手当、時間外手当(残業代)も賃金総額に含まれる
※過去問では、計算例として通勤手当・時間外手当の記述が出題されている - 雇入後3カ月に満たない者は、雇入後の期間で計算
計算時に控除する期間
次の期間や賃金は、「平均賃金の額が不当に低くなる」ため、賃金総額・暦日数からから除きます。
- 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
- 産前産後の女性が法65条の規定によって休業(産前産後休業)した期間
- 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- 育児・介護休業法に規定する育児休業又は介護休業をした期間
- 試みの使用期間
※ただし、試みの使用期間中に、平均賃金を算定する事由が生じた場合は参入する
計算時に控除されない期間
- 通勤災害によって休業した期間
- 年次有給休暇の取得日数及びその間の賃金
- 生理休暇を取得した期間
- 子の看護休暇を取得した期間
計算時に除外する賃金
次の賃金は、「平均賃金の額が不当に高くなる」ため、賃金から除きます。
- 臨時に支払われた賃金。退職金、私傷病手当金、加療見舞金等など
- 3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金。賞与を指す
支給額があらかじめ確定していないもの - 通貨以外のもので支払われた賃金で、一定の範囲に属さないもの
平均賃金の計算例
次の条件にて平均賃金、解雇予告手当・休業手当の計算をしてみます。




ブラック企業 中間管理職
チャッピー パワハラ上司と、生意気な部下の板挟み。




ブラック企業
部長 M 「く、クビだー」と言いたい。




平均賃金額は、10,989.01円となります。






今月の営業目標が高すぎるため、下方修正をお願いしたいですが…






何っ!上司の命令に従えないなら、クビだーーー!明日から来なくていい!






ひえーー
(不当解雇!)
続いて、上記で算出した「平均賃金」を用いて、7月10日付で、即日解雇を行った場合の解雇予告手当の計算します。
解雇予告手当=平均賃金×30日
=10,989.01×30=329,670.3≒329,670円
※1円未満が生じた場合は、銭を四捨五入
即時解雇を行った場合の、解雇予告手当は、329,670円となります。






取引先からクレームが入ったぞ!大事な顧客からの信用を失った責任で、お前はクビだーー!10日間で、顧客への謝罪と、後任への引継ぎをやれ!






悪質なクレーマーと、理不尽な上司!辞めた方がいいかも。
次は、7月10日付解雇を、6月30日に予告した場合(10日間の予告がある場合)の解雇予告手当の計算です。
解雇予告手当=平均賃金×20日
=10,989.01×20=219,780.2≒219,780円
10日間の解雇予告をした場合の、解雇予告手当は、219,780円となります。
最後に、7月5日~7月9日までの5日間、会社の都合により休業させた場合の休業手当の計算です。
休業手当=平均賃金×60%×5日
=10,989.01×0.6×5=32,967.0≒32,967円
会社都合で5日間休業させた場合の、休業手当は、32,967円となります。






えーっと、休業手当は月給の6割…なんか少ない気が。
月給33万円の場合、平均賃金は1.1万円、休業手当を22日分もらうで計算すると月額14.5万円。
いつもの月給の半分以下になります。これは平均賃金算出時に、所定労働日数(出勤日数)ではなく、暦日(カレンダー日数)で割るためです。休業手当の支給は、いつもの月給の4割くらいで予定しておきましょう。
労働基準法12条「平均賃金の定義」まとめ
- 平均賃金は、労働基準法で手当・保証などを算出する基準となるもので、給料の1日当たりの額
- 計算式は、過去3カ月分の賃金の合計を、その対象となる3カ月の暦日数で割った金額
- 時給・日給制の場合、長期休暇などがあると、計算した金額が低くなるため、最低保証額を定める
労働基準法12条「平均賃金の定義」社労士試験過去問と解説




条文だけでは、いまいち理解できないことが多いので、社労士試験の過去問で復習しましょう。
※答えは「解答・解説を見る」▼を押して確認してください。
H27年出題 算定事由発生日
労働災害により休業していた労働者がその災害による傷病が原因で死亡した場合、使用者が遺族補償を行うに当たり必要な平均賃金を算定すべき事由の発生日は、当該労働者が死亡した日である。
出典:社労士過去問ランド
H27年出題 算定期間:賃金締切日
賃金締切日が毎月月末と定められていた場合において、例えば7/31に算定事由が発生したときは、なお直前の賃金締切日である6/30から遡った3ヵ月が平均賃金の算定期間となる。
H27年出題 控除事由:公民権の行使
平均賃金の計算において、労働者が労働基準法第7条に基づく公民権の行使により休業した期間は、その日数及びその期間中の賃金を労働基準法第12条第1項及び第2項に規定する期間及び賃金の総額から除外する。
H24年出題 賃金の総額:通勤手当・家族手当
平均賃金の計算の基礎となる賃金の総額には、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金、通勤手当及び家族手当は含まれない。
H24年出題 賃金の総額:賞与
労働基準法に定める「平均賃金」とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいい、年に2回6か月ごとに支給される賞与が当該3か月の期間内に支給されていた場合には、それも算入して計算される。
H27年出題 算定期間:異なる賃金締切日
賃金締切日が、基本給は毎月月末、時間外手当は毎月20日とされている事業場において、例えば6月25日に算定事由が発生したときは、平均賃金の起算に用いる直前の賃金締切日は、基本給、時間外手当ともに基本給の直前の締切日である5月31日とし、この日から遡った3か月が平均賃金の算定期間となる。