法11条「賃金の定義」賃金と報酬、給与と給料の違いとは

この記事では、労働基準法11条「賃金の定義」について、わかりやすく解説します。
仕事をしてお金をもらうという意味で、賃金・報酬・給料・給与・と様々な呼び方があります。法律や、使用する場面により使い分けられています。
賃金と報酬の違い
まずは、賃金の報酬の違いです。この二つは、主に法律ごとで使い分けがされています。
- 賃金とは
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労働基準法や雇用保険法など労働法の分野では「賃金」と呼びます。労働法では、労働者と使用者を明確に区別して、労働者に支払われ保護する必要があるものとして「賃金」を定義しています。
- 報酬とは
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健康保険法や厚生年金保険法など社会保険の分野では「報酬」と呼びます。民法では労働者に限定することなく、請負や委任として働いた対価に対して支払われるものを広く「報酬」と呼びます。
例外として、労働基準法の中でも、役員報酬のように、経営者など労働者以外に支払われるものを指すとき「報酬」が用いられます。
給与と給料の違い
続いて給与と給料の違いです。本来次のような使い分けがされていますが、実際には混合して使用されていることも多いので、注意が必要です。
- 給与とは
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残業代や各種手当、賞与など会社から受け取るものがすべてを給与といいます。労働協約で定期券を現物支給にする定めをした場合、この現物支給されたものも給与に含まれます。実質的には、賃金と同義語で用いて問題ないです。
- 給料とは
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いわゆる基本給のことです。給与から残業代や各種手当などを引いたものが給料です。
給与は給料よりも広い範囲を指すので、混同しないようにしましょう。






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労働基準法11条「賃金の定義」条文




賃金の定義
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
(条文解説)
賃金とは労働者が働いた対価として、使用者から支払われるものです。名前や呼び方が何であるかは問いません。判断が分かりにくいものもありますので、具体的に労働基準法で「賃金とするもの」「賃金としないもの」を例示します。
賃金とするもの(労働の対償)とするもの




賃金の範囲は、かなり広いものだと言えます。
基本給、賞与、通勤手当(定期券を含む)、扶養手当、家族手当、住宅手当、役職手当、地域手当、単身赴任手当など
以下は、直接的な労働の提供ではないものの、賃金となります。
- 生計補助費的なもの
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家族手当・住宅手当など
- 労働の提供をよりスムーズにするためのもの
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通勤手当など
次のものも、具体的に労働の提供はありませんが、賃金となります。
- 労働基準法によって支払いが義務付けられている
- 休業手当(法26条)・年次有給休暇手当
- 労働協約・就業規則・労働契約において支払いが、約定されているもの
- 支給要件が明確・定期的な食事供与
- 業務と関係のない被服の利益など
賃金としないもの
「賃金としないもの」の中にも、恩恵的・実費弁償的なもの、その他に分かれます。
- 恩恵的なもの
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恩恵的なものとは、支給条件が不明確なものをいいます。具体例として、結婚祝金、死亡弔慰金、出産見舞金、退職金などがあります。
※ただし、結婚祝金や弔慰金など、就業規則であらかじめ支給条件や支給額を定めている場合は、賃金に該当するため注意が必要です。
- 実費弁証的なもの
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実費弁償的なものとは、業務で立て替えて出費をしたものをいいます。具体例として、出張旅費、宿泊費、車両手当・通信手当、制服・作業服費などがあります。
- その他 賃金に該当しないもの
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解雇予告手当、休業補償費、療養補償費、傷病手当金なども賃金には該当しません。
- 個々の状況で判断されるもの
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現物給付されるものには、住宅貸与、食事供与、作業服(制服)、作業靴などがあり、これらは賃金か福利厚生、個々の状況で判断されます。
「休業手当」と「休業補償費」の違い




混合しがちですが、休業手当は賃金で、休業補償費は賃金には該当しません。
- 休業手当:賃金になる
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休業手当とは、使用者の都合により労働者が働けない状態にある際に、使用者が平均賃金の6割以上を支払うように定めた制度です。
- 休業補償:賃金にならない
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休業補償とは、業務中に生じた怪我や病気などで働けなくなった労働者を救済する制度で、平均賃金の8割が労災保険から支払わるものです。
退職金は賃金になるか?
問題になることが多いものが退職金です。就業規則に支給条件などはっきりと記載されている場合は賃金となり、支払い義務が生じます。ただし、就業規則に定めが無くても、過去の退職者の多くが受け取っていれば、賃金として支払う義務が生じるケースがあります。
このような就業規則に定めが無い慣習にも注意が必要です。退職金制度を取り入れないなら、安易に支給しないことも大切です。
労働基準法11条「賃金の定義」まとめ
- 「仕事をしてお金をもらう」呼び方が法律により異なり、労働基準法では賃金 、社会保険の法律では報酬という
- 賃金とは、労働の提供の見返りとして、使用者から支払われるもので、給与と同義語
- 結婚祝金や弔慰金など、就業規則の定めの有無で、賃金がどうかが変わるものがある
労働基準法11条「賃金の定義」社労士試験過去問と解説




条文だけでは、いまいち理解できないことが多いので、社労士試験の過去問で復習しましょう。
※答えは「解答・解説を見る」▼を押して確認してください。
H26年出題 解雇予告手当
賞与、家族手当、いわゆる解雇予告手当及び住宅手当は、法11条で定義する賃金に含まれる。
出典:社労士過去問ランド
H24年出題 6カ月定期乗車券
労働協約により、通勤費として6ヵ月ごとに定期券を購入し、それを労働者に支給している場合、この定期券は、法11条に規定する賃金とは認められず、平均賃金算定の基礎に加える必要はない。
H22年出題 結婚手当
結婚手当は、使用者が任意的・恩恵的に支給するという性格を持つため、就業規則によってあらかじめ支給要件が明確に定められ、その支給が使用者に義務付けれている場合でも、法11条に定める賃金には当たらない。
H27年出題 退職手当
労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確である場合の退職手当は、労働基準法第11条に定める賃金であり、同法第24条第2項の「臨時に支払われる賃金」に当たる。
R1年出題 ガソリン代
私有自動車を社用に提供する者に対し、社用に用いた場合のガソリン代は走行距離に応じて支給される旨が就業規則等に定められている場合、当該ガソリン代は、労働基準法第11条にいう「賃金」に当たる。
H30年出題 ストック・オプション
いわゆるストック・オプション制度では、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、また、権利行使するとした場合において、その時期や株式売却時期をいつにするかを労働者が決定するものとしていることから、この制度から得られる利益は、それが発生する時期及び額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、労働基準法第11条の賃金には当たらない。
R2年出題 食事の供与
食事の供与は、食事の支給のための代金を徴収すると否とを問わず、
・食事の供与のために賃金の減額を伴わないこと
・食事の供与が就業規則、労働協約等に定められ、明確な労働条件の内容となっている場合でないこと
・食事の供与による利益の客観的評価額が、社会通念上、僅少なものと認められるものであることの3つの条件を満たす限り、原則として、これを賃金として取り扱わず、福利厚生として取り扱う。