「傷病手当金」業務外の病気・ケガで会社を休んだときに支給される
病気やケガなどで働けなくなった、誰にでも将来起こる可能性がある不安です。その将来の不安に対して、守ってくれるのが保険制度です。傷病手当金は、健康保険に加入している人が、業務外の病気やケガで仕事を休んだときに支給される制度で、支給期間は開始から1年6カ月です。制度を知るだけでも将来の不安感が軽減されます。
国民健康保険では、傷病手当金が無いため自営業者やフリーランスの場合は支給を受けることができません。
働くことができない「労務不能」とは
支給要件の一つに、「労務不能」があります。労務不能に一律な基準はなく、その人の業務内容などを個別に判断されます。
本来業務(本業)に就けない(今まで従事していた仕事)状態を指し、外回りの営業マンが足にケガを負い、内勤ならできるという場合も、労務不能と判断されることがあります。これを代替的(代わりになるもの)性格を持たない労務に従事を含むという表現がされます。
ブラック派遣会社の常識「労務不能にならない」

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「傷病手当金」法99条の条文解説




1項 傷病手当金
被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
出典:健康保険法 | e-Gov法令検索
(条文解説)
被保険者が、業務外の病気やケガの治療のため、働くことができないときに生活保障のため、傷病手当金を支給します。支給されるには下記の条件を満たす必要があります。
傷病手当金の支給条件
- 療養中であること
-
健康保険で診察を受けることができる範囲内であること、美容整形手術による療養などは含まれません。自宅での療養でも支給が受けられます。業務上・通勤災害によるもの(労災保険の対象)は支給対象外です。
- 労務に服することができないこと
-
通院のため、仕事ができない状況も含まれます。仕事にできない状況の判定は、被保険者の仕事の内容も考慮して、判断されます。
- 継続した3日間の待機を満了したこと
-
待機期間といい、3日間連続して労務不能になることによって満了します。休日や祝祭日など労働日でない日が含まれていてもよいです。有給休暇も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。傷病が再発した場合に、再度待期期間が必要にはなりません。同一傷病であれば、一度待機が満了すればよいとされています。
待機の起算日は、労務不能になった当日が原則です。業務終了後になった場合は、労務の提供の必要が無いため、翌日から起算します。
- 給与(報酬)の支払いがないこと
-
給与の支払いがあっても、傷病手当金の支給額より少ない場合は、その差額が支給されます。任意継続被保険者である期間中に発生した、病気・ケガについては、支給されません。
2項 支給額
傷病手当金の額は、一日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した十二月間の各月の標準報酬月額を平均した額の三十分の一に相当する額の三分の二に相当する金額とする。ただし、同日の属する月以前の直近の継続した期間において標準報酬月額が定められている月が十二月に満たない場合にあっては、次の各号に掲げる額のうちいずれか少ない額の三分の二に相当する金額とする。
(条文解説)
1日の支給額は、標準報酬月額の2/3に相当する金額で、1円未満の端数があるときは、四捨五入した額になります。支給を受けている期間でも、健康保険料の支払いは免除されません。加入期間が12カ月に満たない場合は、次の「STEP3」の計算方法にて算定します。
傷病手当金の支給額計算方法
給料の平均ではなく、健康保険の標準報酬月額の平均で計算を行い、月額ではなく日額で計算します。
支給開始日前の加入期間が、12カ月あるかないかで、支給額の計算方法が変わります。まずは、加入期間が12カ月ある場合の計算式です。




例)支給開始日がH30年6/1の場合
支給開始日以前の12カ月(H29年7月~H30年6月)、各月の標準報酬月額を合算して平均額を算出します。
(26万円×2カ月+30万円×10カ月)÷12カ月÷30日=9,777≒9,780円
※30日で割ったときの1の位を四捨五入する
1日当たりの支給額は、9,780円×2/3=6,520円
※計算した金額に小数点があれば、小数点第1位を四捨五入します。




支給開始日以前の加入期間が、12カ月に満たない場合は、次のいずれか低い額を使用して計算します。
A:支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均値
例)資格取得月が4月、支給開始月が10月であれば、4~10月までの標準報酬月額6カ月間の平均値を計算します。
B:標準報酬月額の平均値 ※現在は30万円
※当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額
今後金額は変わる可能性があります。
A、Bいずれか低い金額を使用して計算します。




つまり標準報酬月額の平均が、30万円以上の場合は30万円になり、30万円未満の場合は、その平均額を使用して日額を算出します。
このような複雑な計算手順を行う理由は、不正防止のためです。支給開始日直近の標準報酬月額を意図的に高額にした場合、この標準報酬月額を基に計算・支給することで、不正に高額支給を受け取る手口が実際に起きていたようです。
3項 厚生労働省令の定め
前項に規定するもののほか、傷病手当金の額の算定に関して必要な事項は、厚生労働省令で定める。
4項 支給期間
傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して一年六月を超えないものとする。




(条文解説)
支給期間は、支給開始から1年6か月間が限度になります。途中で復帰するなどしても、支給期間は変わりません。支給期間の中で出勤日などがあっても、延長などはありません。また退職後も支給を受けることができます。
労務不能日に公休日がある場合も、支給対象となります。支給額を計算する際(月額を日額)に、30で割ることから休日込みで換算しているため、公休日も支給対象となります。
傷病手当金の受給手続き
傷病手当金の支給を受けようとする被保険者は、傷病手当金支給申請書に、以下を添付して保険者(協会けんぽなど)に提出しなければなりません。
- 医師または、歯科医院の意見書
労務不能の状態であったかどうかの所見、主たる症状や治療内容などを記入してもらいます。 - 事業主の証明書
会社に出勤しなかった日など、労務に服することができなかった期間、賃金の支払いがあったかどうかなど、事業主の証明が必要となります。
傷病手当金の併給調整




傷病手当金は、生活保障のための目的であるため、事業主から給与が出る場合などは支給額が調整されます。給与以外の例も併せて確認します。
- 報酬との調整
-
報酬の全部または一部を受けることができる場合は、傷病手当金は支給されません。ただし、報酬が傷病手当金の額より少ない場合は、その差額が支給されます。
- 出産手当金との調整
-
出産手当金を支給される場合は、傷病手当金の支給されません。出産手当金の支給額は、傷病手当金の支給額と同額であるため、差額は発生しません。
- 障害厚生年金、老齢退職年金との調整
-
報酬との調整と同じ考えになりますので、障害厚生年金が少ない場合は、さの差額が支給されます。
- 障害手当金との調整
-
障害厚生年金とは異なり、一時金での支給であるため、一時金の支給額が傷病手当金の支給額を超えた部分については支給されます。
「傷病手当金」法99条 まとめ
- 傷病手当金とは、仕事以外の病気やケガで働けなくなったときに、生活保障として受け取れる制度
- 協会けんぽなどの被保険者が対象で、国民健康保険の自営業者には、傷病手当金はない
- 支給額は給与の約2/3、働くことのできなかった最長1年6カ月の期間、受け取ることができる






被保険者が新型コロナウイルス感染症により、療養のために会社を休み、給与が受けられない場合も支給されます。手続きをしないと支給されない制度なので、内容を知り療養の際には利用しましょう。
「傷病手当金」法99条 社労士試験過去問と解説
条文の内容を社労士試験過去問で復習します。過去の判例や事例を学ぶことで実務でも役立ちます。
答えは「解答・解説を見る」 ▼を押して確認してください。
R2年出題 要件:資格取得前の疾病又は負傷
被保険者資格を取得する前に初診日がある傷病のため労務に服することができず休職したとき、療養の給付は受けられるが、傷病手当金は支給されない。
出典:社労士過去問ランド
H25年出題 療養の範囲
傷病手当金は、療養のために労務に服することができなかった場合に支給するもので、その療養は必ずしも保険医の診療を受けた場合のみとは限らない。
R2年出題 労務不能:伝染病による休業
伝染病の病原体保有者については、原則として病原体の撲滅に関し特に療養の必要があると認められる場合には、自覚症状の有無にかかわらず病原体の保有をもって保険事故としての疾病と解するものであり、病原体保有者が隔離収容等のため労務に服することができないときは、傷病手当金の支給の対象となるものとされている。
R1年出題 労務不能:一時的な軽微な他の労務
傷病手当金は、労務不能でなければ支給要件を満たすものではないが、被保険者がその本来の職場における労務に就くことが不可能な場合であっても、現に職場転換その他の措置により就労可能な程度の他の比較的軽微な労務に服し、これによって相当額の報酬を得ているような場合は、労務不能には該当しない。また、本来の職場における労務に対する代替的性格をもたない副業ないし内職等の労務に従事したり、あるいは傷病手当金の支給があるまでの間、一時的に軽微な他の労務に服することにより、賃金を得るような場合その他これらに準ずる場合も同様に労務不能には該当しない。
R1年出題 労務不能:支給期間満了後の併発
被保険者が、心疾患による傷病手当金の期間満了後なお引き続き労務不能であり、療養の給付のみを受けている場合に、肺疾患(心疾患との因果関係はないものとする。)を併発したときは、肺疾患のみで労務不能であると考えられるか否かによって傷病手当金の支給の可否が決定される。
H28年出題 待期期間:労務不能の起算日
被保険者が就業中の午後4時頃になって虫垂炎を発症し、そのまま入院した場合、その翌日が傷病手当金の待期期間の起算日となり、当該起算日以後の3日間連続して労務不能であれば待期期間を満たすことになる。
H28年出題 待期期間:所定の休日
傷病手当金の支給要件として継続した3日間の待期期間を要するが、土曜日及び日曜日を所定の休日とする会社に勤務する従業員が、金曜日から労務不能となり、初めて傷病手当金を請求する場合、その金曜日と翌週の月曜日及び火曜日の3日間で待期期間が完成するのではなく、金曜日とその翌日の土曜日、翌々日の日曜日の連続した3日間で待期期間が完成する。
H21年出題 待期期間:再度の労務不能
傷病手当金の待期期間は、最初に療養のため労務不能となった場合のみ適用され、その後労務に服し同じ疾病又は負傷につきさらに労務不能になった場合は待期の適用は行われない。
H29年出題 支給額:任意継続被保険者の期間
傷病手当金の額の算定において、原則として、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12か月間の各月の標準報酬月額(被保険者が現に属する保険者等により定められたものに限る。)の平均額を用いるが、その12か月間において、被保険者が現に属する保険者が管掌する健康保険の任意継続被保険者である期間が含まれるときは、当該任意継続被保険者である期間の標準報酬月額も当該平均額の算定に用いることとしている。
H26年出題 支給期間:年次有給休暇
被保険者が、業務外の事由による疾病で労務に服することができなくなり、4月25日から休業し、傷病手当金を請求したが、同年5月末日までは年次有給休暇を取得したため、同年6月1日から傷病手当金が支給された。この傷病手当金の支給期間は、同年4月28日から起算して1年6か月である。
H24年出題 支給の申請
傷病手当金の支給を受けようとする者は、被保険者の疾病又は負傷の発生した年月日、原因、主症状、経過の概要及び労務に服することができなかった期間に関する医師又は歯科医師の意見書及び事業主の証明書を添付して保険者に提出しなければならず、療養費の支給を受ける場合においても同様である。
H25年出題 請求権の相続
被保険者が死亡した場合、その被保険者の傷病手当金の請求権については、相続権者は請求権をもたない。